公募研究
本領域では、ストレンジネス核物理の実験研究で得られる核物質中でのハイペロン の相互作用、中性子過剰核の実験研究で得られる中性子過剰核物質の低密度から 高密度での物性、極低温原子系の実験研究で得られるフェルミ縮退ガスの性質、 そしてX線天文観測で得られる中性子星の半径などの情報を、理論研究を通して統合 することによって中性子星内部の核物質全体を支配する状態方程式を決定し、 中性子星の内部構造やそこに現れる様々な状態の未知の物質を解明することを 目指している。
中性子星核物質は、極めて多方面の研究分野に関連しており、多様な公募研究 の実施が本領域の発展に大きな役割を果たす。ストレンジネス核物理、不安定核 物理、バリオン間相互作用や多体核力、高エネルギー重イオン衝突、クォーク物質、 ニュートリノ原子核反応、冷却原子系、超新星やコンパクト星などの天体現象、 といった様々な分野からの課題と、それらをつなぐ横断的な課題について、 実験・観測・理論研究の提案を期待する。また、これらの実験・観測研究の発展 に不可欠な検出器の研究も取り上げたい。
平成27, 28年度の公募研究は以下のとおりです。
研究代表者名 | 所属略称 | 研究科題名 | 関連る計画研究 |
山崎 敏光 | 東大 | 多重K中間子凝縮核と中性子星 | A01 |
河野 通郎 | 阪大 | カイラル有効理論のハイペロン核子3体力が示唆するストレンジネス核物理 | A02 |
本多 良太郎 | 阪大 | J-PARC二次ビーム高強度化のための汎用トリガーモジュールの開発 | A02 |
時安 敦史 | 東北大 | 光生成反応による反K中間子原子核探索のための粒子識別検出器開発 | A02 |
大田 晋輔 | 東大CNS | 錫132の巨大単極共鳴測定による中性子核物質の非圧縮率の研究 | B01 |
小沢 顕 | 筑波大 | 新型飛行時間検出器によるNi同位体の質量測定 | B02 |
山口 貴之 | 埼玉大 | きわめて不安定な原子核の表面にあらわれる中性子層核物質の探索によるEOSへの挑戦 | B02 |
板橋 健太 | 理研 | π中間子原子分光実験の発展 | B02 |
牧島 一夫 | 東大 | X線で探る 中性子星の表面 | C01 |
榎戸 輝揚 | 理研 | 超高時間分解能・大統計X線ミッションNICERとの国際連携による中性子星観測 | C01 |
木内 建太 | 京大 | 連星中性子星合体によるマグネター形成と核物質状態方程式 | D01 |
大橋 洋士 | 慶応大 | 極低温フェルミ原子気体における状態方程式の理論的決定と中性子星低密度領域への応用 | D01 |
新田 宗土 | 慶応大 | 中性子星において回転する超流動体の研究 | D01 |
古本 猛憲 | 一関高専 | 重イオン弾性散乱による高密度領域の核媒質効果の分析 | D01 |
祖谷 元 | 国立天文台 | 中性子星観測から迫る原子核飽和パラメータの制限 | D01 |
平成25, 26年度の公募研究は以下のとおりです。
研究代表者氏名 | 所属略称 | 研究課題名 | 関連する計画研究 |
谷田 聖 | JAEA・原科研 | Ξ原子のX線測定によるΞ粒子と原子核間のポテンシャルの研究 | A01 |
研究の概要 | |||
この研究ではΞ-粒子と原子核によって構成されるΞ原子からのX線のエネルギーを測定することで、Ξ粒子と原子核間のポテンシャルを調べる。Ξ-粒子は負電荷を持つため、より軽いΛ粒子よりも中性子星中に沢山存在する可能性がある。そのため、中性子星を原子核物理から理解する上で、原子核中におけるΞ粒子のポテンシャルの深さの測定が重要な鍵を握っている。この測定を世界で初めて行うことで、中性子星のより深い理解を目指す。 | |||
研究代表者氏名 | 所属略称 | 研究課題名 | 関連する計画研究 |
家入 正治 | KEK・素核研 | ストレンジネス核物理実験のための超高速イメージ撮像管システムの開発 | A01 |
研究の概要 | |||
ストレンジネスが関与する実験では反応や生成、 |
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研究代表者氏名 | 所属略称 | 研究課題名 | 関連する計画研究 |
江角 晋一 | 筑波大・数理物質 | 高温高密度クォーク物質のQCD臨界点探索 | A02 |
研究の概要 | |||
米国BNL、欧州CERN研究所の重イオン加速器(RHIC,LHC)での高エネルギー原子核衝突により再現される宇宙初期及び中性子星内部のような高温・高密度における物質の極限状態:クォーク・グルーオン・プラズマ(QGP)の実験的研究を行い、様々な実験の多くの実験データを多粒子相関法(特に、ハード領域のジェットとソフト領域の流体間の相関測定)を用いて解析することにより、このような物質の極限状態における性質を調べる事を目的とする。 関連リンク先:http://utkhii.px.tsukuba.ac.jp/~esumi/temp/mypage.html |
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研究代表者氏名 | 所属略称 | 研究課題名 | 関連する計画研究 |
岡田 信二 | 理研・仁科 | K中間子原子X線分光に向けたマイクロカロリメータのビーム環境下における性能評価 | A02 |
研究の概要 | |||
K中間子原子X線分光実験に於いて、従来のエネルギー分解能を二桁上回るTES型マイクロカロリメータの応用を計画している。新たに得られるK-原子核間の強い相互作用の情報は、中性子星内部のK中間子発生領域の理解に重要な基礎データを提供するだけでなく、未だ混迷を極めているK中間子深束縛核の存否についてピーク探査とは異なった新たな切り口で一石を投じる。本公募研究では、本検出器を開発中の大学・研究所との連携を強化し、ハドロンビーム環境下における基本性能の評価を通じて、本計画の実現可能性を示す。 | |||
研究代表者氏名 | 所属略称 | 研究課題名 | 関連する計画研究 |
銭廣 十三 | 理研・仁科 | 錫132の中性子スキン厚測定で探る中性子核物質の状態方程式 | B01 |
研究の概要 | |||
原子核物質の状態方程式を決定することは、原子核物理学の大きなテーマの一つである。特にアイソスピン非対称度に依存する項である対称エネルギーを明らかにすることは巨大な原子核とも言える中性子星という天体核現象の解明に不可欠である。この対称エネルギーは重い原子核の中性子スキン厚と強く相関している事がわかってきた。特に錫132は2重魔法数を持ち厚い中性子スキンを持つと予想される不安定な原子核として注目されている。本研究では、錫132の中性子スキン厚を、陽子弾性散乱測定から正確に決定することを目指す。 |
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研究代表者氏名 | 所属略称 | 研究課題名 | 関連する計画研究 |
関口 仁子 | 東北大・理 | 陽子・ヘリウム3散乱系における三体力発現機構の研究 | B02 |
研究の概要 | |||
三体力(三核子力)は核物質の状態方程式、原子核の束縛エネルギーなど、原子核の諸性質を理解する上で欠かせない重要な核力であると考えられている。本研究では、核子多体系における三体力の発現機構の理解を目指して、100 MeV付近における陽子・ヘリウム3弾性散乱の高精度測定を行う。近年可能となった四核子系散乱の厳密理論計算と実験値との比較から、同散乱における三体力の発現性、及び三体力の荷電スピン、スピン依存性を定量的に評価する。 |
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研究代表者氏名 | 所属略称 | 研究課題名 | 関連する計画研究 |
山口 貴之 | 埼玉大・理工 | 二重魔法数エキゾチック核Ni-78の質量精密測定 | B02 |
研究の概要 | |||
本研究は、理研RIBFに建設中の重イオン蓄積リング『稀少RIリング』を用いて、極端に不安定な原子核の質量精密測定を行う。中性子過剰な原子核の質量は、中性子星の構造を理解するために必要な核物質状態方程式の密度依存パラメータに非常に感度がある。これまで不安定核の質量測定はイオントラップ法が優位であったが、稀少RIリングはRIBFの大強度ビームを利用して、個別入射法と等時性質量分光法を組み合わせたユニークな質量測定法により、たとえ1粒子でも質量精度10-6を得る仕組みをそなえる。これにより世界に先駆けて短寿命エキゾチック核の質量精密測定を可能とし、中性子星核物質の理解に貢献する。 | |||
研究代表者氏名 | 所属略称 | 研究課題名 | 関連する計画研究 |
民井 淳 | 阪大・RCNP | 原子核の電気双極応答測定による対称エネルギーの研究 | B02 |
研究の概要 | |||
本研究の目的は、原子核物質の状態方程式の対称エネルギー項を調べることにある。近年対称エネルギーの1次の密度依存性を決定することが、中性子星内の核力による圧力および中性子星の質量-半径相関を決める鍵として注目されている。これまでに開発してきた陽子非弾性散乱の手法を用いて中重安定核の電気双極応答を精密に測定する。電気双極応答から双極分極率およびピグミー双極共鳴強度を引き出し、対称エネルギーの値として許される範囲に強い制限を与える。 | |||
研究代表者氏名 | 所属略称 | 研究課題名 | 関連する計画研究 |
牧島 一夫 | 東大・理 | X線を用いたマグネターの研究 | C01 |
研究の概要 | |||
中性子星(NS)の磁場は、7桁以上にも分布するが、その保持機構や磁場強度の分布は、未解明である。我々は、NS の磁場は中性子のスピン整列に伴う核物質強磁性の発現であるという独自の仮説を念頭に、稼働中のX線衛星「すざく」と後継機ASTRO-Hを組み合わせ、マグネターの観測的な研究を行う。それらが真に超強磁場をもつNSであるという証拠を増やすととともに、ASTRO-H 搭載軟ガンマ線検出器 (SGD)の打ち上げ前の検証・較正を行うことが目的である。 |
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研究代表者氏名 | 所属略称 | 研究課題名 | 関連する計画研究 |
前田 良知 | JAXA・宇宙研 | 未同定X線天体を用いた新しい中性子連星系の探査 | C01 |
研究の概要 | |||
本研究の目的は、 SXS の望遠鏡部の性能評価を行う。 |
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研究代表者氏名 | 所属略称 | 研究課題名 | 関連する計画研究 |
萩野 浩一 | 東北大・理 | 質量降着を伴う中性子星における中性子過剰核の核融合反応 | D01、C01、B02 |
研究の概要 | |||
本研究では、X線連星の静穏期におけるX線放出の起源とされる、中性子星クラスト深部で起こる中性子過剰核のピクノ核融合反応に着目した研究を行う。その際、中性子過剰核の反応で重要となる多中性子移行過程及び分解過程を考慮する。また、この反応は原子核からこぼれ落ちた中性子の海の中で起こると考えられるが、この効果もこの研究で初めて明らかにする。本研究により、反応率の不定性が大幅に小さくなり、X線光度観測から精度よく中性子星内部の情報が引き出せるようになることが期待される。 | |||
研究代表者氏名 | 所属略称 | 研究課題名 | 関連する計画研究 |
根村 英克 | 筑波大・数理物質 | 格子QCDによるハイペロン相互作用の研究とハイパー核への展開 | D01 |
研究の概要 | |||
ラムダ核子相互作用並びにシグマ核子相互作用について、中心力、テンソル力およびスピン軌道力の性質を、できるだけ物理点に近いクォーク質量領域でかつ大きな空間体積を持った格子QCD計算を行うことによって調べる。格子QCD計算から得られたハイペロンポテンシャルを用いて、s-殻ハイパー核に加えて中性子過剰ハイパー核であるH6Λの精密計算を実行する。 s-殻ハイパー核の計算の目的は、ハイペロンポテンシャルがこれらハイパー核の結合エネルギーの実験値を矛盾無く説明できるかを調べることである。さらに、そのような成果に基づいて中性子過剰ハイパー核の精密計算を実行することにより、通常核(および中性子過剰核)の研究で行われている精度にせまるほどの理論研究をハイパー核でも行えるように進めていくことを目指す。 |
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研究代表者氏名 | 所属略称 | 研究課題名 | 関連する計画研究 |
木内 建太 | 京大・基研 | 中性子星の星震と核密度状態方程式に関する数値的研究 | D01 |
研究の概要 | |||
研究代表者氏名 | 所属略称 | 研究課題名 | 関連する計画研究 |
安武 伸俊 | 千葉工大・情報 | 強磁場中性子星の多次元進化計算と観測比較による内部磁場の制限 | D01 |
研究の概要 | |||
バリオン間相互作用や高密度状態方程式といった核物理(A, B, D01班に対応する研究成果)をマグネター内部の磁場分布、ないし表面温度分布(X 線観測、つまり C01班に対応する研究成果)から制限することを目標としている。核物理から天体現象を首尾一貫して取り扱うために、本公募研究における当該領域の橋渡し的な役割を果たすことが期待できる。 関連リンク先:http://www.butsuri.it-chiba.ac.jp/~yasutake/ |
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研究代表者氏名 | 所属略称 | 研究課題名 | 関連する計画研究 |
大橋 洋士 | 慶應大・理工 | BCS-BECクロスオーバー領域におけるフェルミ超流体の熱力学と超流動物性 | D01 |
研究の概要 | |||
BCS-BECクロスオーバー領域におけるフェルミ原子ガスを、中性子星における超流動状態など、様々な超流動系に対する量子シミュレータとして活用できるようにするための理論研究を行う。この目的のため、高い計算精度が要求される帯磁率、圧縮率、比熱などの物理量を、実験結果と定量的レベルで比較でき、かつ、未だ実験が行われていない相互作用領域、温度領域にも幅広く適用できる強結合理論の構築を目指す。 研究室URL:http://www.phys.keio.ac.jp/faculty/yohashi/index-jp.html |
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