計画研究

総括班

新学術領域研究「実験と観測で解き明かす中性子星の核物質」は、 J-PARCにおけるストレンジネス核物理の研究、 理研RIBFにおける中性子過剰核物理の研究、 ASTRO-HによるX線天文観測という、 日本が誇る3つの世界最高の施設を用いて進める研究を組み合わせ、 極低温フェルミ原子ガスの実験研究も加え、これらを統合する理論研究を通して、 中性子星の表面から中心に至る核物質全体を支配する状態方程式(EOS)を決定し、 中性子星内部の構造と各領域に現れる核物質の正体を解き明かすことを目指している。

総括班は、各計画研究、公募研究を統括し、 これらの研究の十分な連携を図って目標の達成へ資するとともに、 その成果を総括し広く公表して成果の周辺分野への波及や さらなる研究の発展を促すことを目的とする。

計画研究A01

「多重ストレンジネスのバリオン間相互作用」
(代表:高橋俊行 高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所)

J-PARCハドロン実験施設K1.8ビームラインにおいて、 (1)ハイブリットエマルジョン法によるダブル・ストレンジネス系事象の測定、 (2)(K-,K+)反応によるΞハイパー核の精密分光、 (3)大立体角ハイペロン崩壊スペクトロメータによるH粒子探索・ ΛΛ相関の測定を行う。 これらの実験によってこれまで殆ど知られていないΛΛ、ΞN、 およびΞN→ΛΛのダブ・ストレンジネスバリオン間相互作用の大きさを測定し、 中性子星中心部の高密度核物質における状態方程式(EOS)の決定 及び信頼性向上に重要な情報を与える。 さらに、高密度核物質に出現するといわれるストレンジ・ハドロンマターの性質 を解明する。

本研究により、これまでデータが乏しく定性的な議論にとどまっていた ダブル・ストレンジネスバリオン間相互作用と高密度核物質の性質に関して 実験データに基づく定量的な議論を可能にさせる。

計画研究A02

「中性子過剰核物質中のストレンジネス」
(代表:田村裕和 東北大学・理学研究科)

中性子星内側でハイペロンが発生するとされる密度2ρ_0ー3ρ_0(ρ_0は核密度)の 領域を理解するため、陽子加速器施設J-PARC において、ストレンジネスS=-1 の ハイペロン(Λ, Σ)やK中間子と中性子との間の相互作用を調べる実験を行なう。 (1)Σ+p, Σ-p散乱実験を行いΣN相互作用の符号と強さを確定する。 (2a)Λハイパー核精密γ分光により軽いΛハイパー核のレベル構造を決定するとともに (2b) 中性子過剰Λハイパー核の(π-,K+)反応による分光実験を行い、中性子過剰環境 でのΛN相互作用、特にΛNN三体力の効果を調べる。 (3)K中間子原子核K-pp 束縛系を3He(K-,n) 反応によって探索し、強い引力とされている K-N 相互作用を確定する。 これらの結果を、他の計画班の研究とともに分析し、中性子星の核物質全体を 支配する状態方程式(EOS)を決定する。

計画研究B01

「高密度中性子過剰核物質の状態方程式」
(代表:村上哲也 京都大学・理学研究科)

中性子星の半径と質量の関係を支配する中性子過剰核物質の状態方程式(EOS) の中でも特に重要な項、"対称エネルギー"が通常核物質の約2倍程度の密度領域 で’堅い’のか’柔らかい’のかを世界に先駆けて決定する。 この密度領域は、中性子星に於いてはouter coreと呼ばれる領域に対応している。

理研不安定核ビーム工場(RIBF)で生成される幅広い陽子数/中性子数比を持つ 中間エネルギー不安定核ビームを標的核(安定核)に衝突させ、 中心衝突から発生する正負π中間子の生成比を系統的に調べる。 収量の少ないπの比を正確に測定するため、 最近RIBFで完成したSAMURAI電磁石に組み込んで使う汎用性の高い多重飛跡検出器 (TPC)を製作する。信号の読み出しには海外の研究グループと共同開発している 高速TPC読み出し回路系を導入する。そして、精密なπ中間子比の測定を行い、 対称エネルギーの密度依存性に強い制限を与える。

計画研究B02

「中性子過剰な中低密度核物質の物性」
(代表:中村隆司 東京工業大学・理工学研究科)

中性子星は大部分が中性子からなる巨大な原子核とみなせる。 しかし、中性子星の半径や最大質量、冷却機構など、 中性子星を特徴づける重要な物理量・機構が未だにわかっていない状況にある。 これは中性子過剰な核物質(核子無限系)の状態方程式(EOS) が未だに決定されていないことも要因である。

本研究では、中性子過剰核物質の物性をあきらかにすべく、 不安定核ビーム技術を駆使して中性子スキン核の核応答(電気双極子励起、 単極子励起)を調べる。 これにより、標準核密度領域について中性子過剰核物質のEOSの確立をめざす。 さらに中性子ハロー核のダイニュートロン相関を系統的に研究し、 中性子星の表面(内殻)付近の低密度領域にあらわれる超流動状態や 冷却機構の解明を目指す。世界の不安定核研究の拠点となった理研RIBFを活用し、 γ線・中性子検出器を建設し、中性子スキン核を中心に研究を展開し、 中性子過剰核物質のEOSの決定を目指す。

計画研究B03

「冷却原子を用いた中性子過剰な低密度核物質の状態方程式」
(代表:堀越宗一 東京大学・工学研究科)

中性子星の中でも中性子が希薄に存在している地殻領域(inner crust) の多体物理を冷却原子系で再現し、その状態方程式や物性を高精度に直接測定する。 測定値から理論の妥当性を評価し、 中性子星内部の状態方程式を確立する出発点とする。

本研究ではレーザー冷却技術や、 近年我々が開発したトラップ中での局所的な物理量の測定技術を駆使し、 (1)任意の相互作用領域下での状態方程式の決定、 (2)p波相互作用する粒子系の熱力学測定を遂行し、 超希薄密度における中性子過剰な低密度核物質の状態方程式を決定する。 冷却原子は外部磁場でs波又はp波の散乱長を自由に調整できる フェッシュバッハ共鳴という強い武器がある。 フェルミ粒子の粒子間相互作用を任意に調整し、 系統的に且つ高精度に測定できるのは冷却原子系以外有り得ない。 本研究において長年に渡るクロスオーバー理論の真意を問い、 多体物理の理論の枠組みを確立する。

計画研究C01

「宇宙X線・ガンマ線観測による中性子星研究の新展開」
(代表:高橋忠幸 宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究所)

中性子星の質量・半径の測定から核物質の状態方程式に制限を加えよう と言う試みは、1970年代からなされているが、特に半径の測定が難しく、 現状は7~15kmという制限がついているに過ぎない。 核理論や地上原子核実験と比較するために、 半径の測定精度を10 倍向上させる必要がある。本研究では、宇宙X線望遠鏡を用い、 距離によらない観測を行い、中性子星半径の精密決定に挑む。 今までにない斬新な装置を駆使し、また新型検出器を開発することで、 上記目的を達成する。

このため、(1)ASTRO-H 衛星(2014 年打ち上げ予定) による、 X線バースト時の中性子星表面で形成される 吸収線の重力赤方偏移の精密測定等による中性子星半径の精密決定、 (2)中性子星表面近くでのガスのケプラー運動の周期測定をめざした高計数率、 高時間分解能のX線検出器の開発、 (3)X線偏光観測による中性子星表面付近のX線放射メカニズムの研究などを行なう。 本研究の前半では、 ASTRO-Hによる観測を行なうためにマイクロカロリメータの耐高計数率化を実現し、 打ち上げ前の試験やキャリブレーションを実施する。

計画研究D01

「中性子星と核物質の理論研究」
(代表:大西明 京都大学・基礎物理学研究所)

中性子星は低密度から高密度にわたる広いダイナミックレンジを持ち、 核子(陽子、中性子)・ハイペロン・K中間子・クォークのように 多彩な構成粒子を含む多体問題の宝庫である。 近年、および近い将来の実験・観測研究の進展により、 中性子星内部の観測情報や構成要素間の相互作用情報が得られ、 多くの問題が解決できる可能性が出てきた。

本研究では、原子核理論・天体理論・凝縮系理論の研究者が協力し、 (1)低密度側での非対称核子物質、(2)高密度側での多成分最高密度低温物質、 (3)コンパクト天体現象の3つの方向から中性子星の物理に迫り、 実験・観測に根ざした中性子星核物質状態方程式を構築するとともに、 密度変化により起こる相構造・量子相転移の普遍性と 多様性を明らかにすることを目指す。