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#author("2024-03-30T11:01:42+00:00","","")
* [[大学院・研究者を目指す人へ]] [#ia40b99e]

** 研究職とはどんなもの? [#pfc18877]

先日出前授業を行った後に、生徒さんから

 私は、大学卒業後も、研究に携わりたいと考えています。
 その時に卒業後の進路として、研究を続けられる進路に
 ついてお聞きしたいです。
 教授以外の道では、どういうことを出来るのですか。

という質問を e-mail でもらいました。

その返事をここに転載しておきます。

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研究者と言っても、大学・研究所で行うものと企業で行うものがあります。
企業での研究は、基礎研究であっても最終的に「もうけにつながる」ことが目的ですので、素粒子・原子核・宇宙の分野での研究は企業では出来ません。
なので、大学と研究所に限って話をします。

通常、研究者になるには、大学の学部、大学院博士課程(前期)、大学院博士課程(後期)と進みます。学部卒では「学士」、博士課程(前期)(2年)では「修士」、博士課程(後期)(3年)では「博士」の学位が与えられます。

高校までとは違い、大学の学部以降では講義を受けるだけではなく研究を行い論文にまとめるという事が必要です。
それぞれ、卒業論文、修士論文、博士論文として研究をまとめたものが、複数の人によって内容を審査し、さらに発表会でも評価が行われて、そこで認められれば、学位が与えられるという仕組みになっています。

生命科学分野の某Oさんの所とは違い、少なくとも東北大の物理では、一つ博士論文に5名の審査員がつき、博士論文の文章を隅々まで読み、内容と文章をチェックします。
最終的な発表までには、審査員による予備審査が行われ、口頭発表をしてもらい、そこで認められない限りは、最終審査を受けさせてもらえないという仕組みになっています。

また、これも分野によって違いますが、博士号を与えるということは一人前の研究者として認めるということですので、査読付き学術雑誌に投稿して掲載されている論文がいくつ以上と規定を決めているところもあります。
素粒子理論の分野では、修士号を取る前に少なくとも1本、博士号を取る前に3本以上(年に一本以上)の要求が多いようです。

「査読」というのは、論文雑誌の編集委員からその分野の研究をしている人に「この論文の内容はこの雑誌に載せるのに値するかどうか」を審査してもらう制度です。
査読してもらう人のことを、英語では refereeと呼んでいます。Referee は、基本ボランティアでなおかつ匿名です。
だれが、referee をしたかは論文を投稿した人にも知らされませんし、学術雑誌にも載りません。公平な立場で審査されます。

物理の分野では博士号は車の免許証のようなもので、あくまでも研究する能力があると認めるものとなっています。
職探しですが基本的には、どこかの大学や研究所にポスト(職)の空きがでるまで待つことになります。
大学・研究所には、定員数が決まっていますので、その範囲でしか人事はおこなわれません。

企業のように一斉に大量に採用して、その中でどこかの部署に振り分けるということはありません。
大学や研究所での研究はその分野でその人にしか出来ないことをしてもらうことが求められます。

どこかの大学や研究所で、そこに居た人が定年で退職した場合や別の大学や研究所に移ることがあれば、どの分野のを次に取りたいかを、大学の研究室単位や学科・専攻単位で議論し、複数名からなる人事委員会が設立されて、人事公募が行われます。
公募は関連する分野の学会の学会誌や、分野のメーリング・リスト、学会のウエブページに掲載されて広く周知されるようにします。
これは、多くの人のなかからいい人を取りたいということから行われいます。

人事公募については、日本物理学会のウエブページだと

http://www.jps.or.jp/public/jinji.html

に載っています。

さて、研究を行うことのできる場所ですが、素粒子・原子核・宇宙の分野だと、大学か国立の研究所に限られます。
大学と研究所の大きな違いは、大学は教育機関ですが、研究所はそうではないということです。
大学では、授業(講義、演習、実験)の義務があり学部生・大学院生の指導義務があります。
一方、研究所は研究することが義務となっています。

国立大学では、職の種類(職位と読んでいます)は、上から、教授、准教授、講師、助教、助手となっていて、多くの私立でも同じです。
国立大では、講師はあまりいません。
法律上の位置づけとして、講義を出来るのは講師以上ということになっていますので、私立大では講師以上
しかいないところもあります。

昔は、教授、助教授、講師、助手の四種類の職位でしたが、2007年に助教授が准教授に助手が助教と助手とにわけられ、名前が変わりました。
助教と助手の違いは、これも大学によって違うのですが、多くの場合は博士号を持っているかいないかで分けられているようです。

研究所については、国立の研究所では大学と同じように職位は教授、准教授、講師、助教と分けられているところがあります。
関連する分野だと、つくばにある高エネルギー加速器研究機構の職はこのような職位になっています。
一方、理化学研究所では、一つの研究室を取りまとめる主任研究員が一人いて、あとは複数の研究員がいる、という形をとっています。

ここまでの話は、任期のない職についてでした。
この他に、大学や研究所の外部から資金を得て、人を雇う任期付きの職があります。
外部資金は、省庁が公募をして研究を大学や研究所にしてもらうものや、個人や企業からの寄付によるものがあります。
これらの、外部資金は多くは、3年から5年程度の期限を切って研究の成果を求めるものですので、この資金によって雇われる人もその資金がある間しか、雇うことができません。

20年位昔は、外部資金を得て人を雇うことができなかった(制度が無かった)こともあり、任期のない職しかありませんでした。
現在は、この制度があるため、博士号を所得後多くの人は、まずは任期付きの職を目指すことになります。
任期の無い職に、博士号を取ってすぐの人あるは、もうすぐとれそうな人が応募することはもちろんかまいません。
ただ、研究成果を挙げている沢山の人が応募してくるので、その中から博士号を取ってすぐのの人が採用されるのは、その人がよっぽど優秀な場合だとおもいます。

任期付きの職で研究を続け、研究成果を学術論文として発表する、実験だとその所属する実験グループで検出器やデータ解析で大きな貢献をするといったことが業績になります。

任期が切れる前に、公募がでれば応募できますが、必ずしも自分がそのときにやっていることにピッタリあう公募がでるとは限りません。
その場合は、少し違うけど近い分野や、広い分野でみると同じと思える分野の職の公募にだすことも必要になっていきます。

長くなりましたが、研究の現場の雰囲気は大学の学部生でも、4年生になって研究室配属がおこなわれて、そこで卒業研究を始めるまではなかなかつかめません。
したがって、今興味をもっていることだけはなく、広く興味を持つようにしてください。
大学入学後いろいろな講義を受けるなかで、やりたいことが変わって行くということは沢山ありますし、自分の世界を広げることができるというのが大学に行くことの醍醐味です。



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