Master's thesis
高エネルギー光子・電子ビームプロファイルモニタの開発と加速器研究への応用
development of high-energy photon and electron beam profile monitor and application to accelerator research
[論文概要]
粒子加速器を用いた物理実験を行う上で、加速器から供給されるビームの性質を理解することはより良い物理データを収集するために重要である。特にビームプロファイルは最終的な物理結果に影響を与えるため、実験をデザインする際やデータを解析する際に必要な情報となる。更に、このようなユーザー側の要請だけではなく、ビームプロファイリングは加速器技術の発展においても欠かせない要素である。ビームの持つパラメータを正確に測定することにより、加速器調整や改善のための理解に繋がり、設計上最高のパフォーマンスでビームを提供することが可能になる。
東北大学電子光理学研究センター(ELPH)のBM4光子ビームラインでは、1 GeV領域の制動放射光子ビームを提供している。電子シンクロトロン(BSTリング) によって1.3 GeV に加速した周回電子に、φ11 µmの炭素ファイバーの輻射体(ラジエータ)を挿入することで制動放射光子ビームを取り出す。この光子ビームを用いた様々な物理実験が展開されており、このためにビームプロファイリングを高精度に行うことが非常に重要である。特に近年ハイパー核物理分野で注目を集めている「ハイパートライトンパズル」の解決に向け、BM4光子ビームラインで計画されている「三重水素ラムダハイパー核直接寿命測定実験」では、標的位置(ビームライン上流)における光子ビーム位置を誤差0.3 mm以下の精度で知る必要がある。しかしこれまで、BM4光子ビームライン上〜中流には、光子ビームを定量的かつ即時的に測定するシステムが無く、写真乾板の原理によるインスタントカメラのフィルムにビームを照射する方法で大まかな位置とサイズを把握するに留まっていた。
この状況を受け、本研究では、新たにBM4光子ビームライン上〜中流における定量的かつ即時的なビームプロファイルを行うための検出器「ビームプロファイルモニタ(BPM)」を開発した。BPMは荷電粒子をVETOするファイバー層、光子ビームを電子陽電子対に変換するアルミニウムコンバータを構成要素に持ち、その電子陽電子対の位置を測定することで、中性粒子である光子ビームの検出を可能にした。また、BSTリングから供給される光子ビームは計数率が数10 MHzに及ぶ高強度なものであり、従来型のトリガーと同期したデータ収集系では即時測定が難しい。そこで、プラスチックシンチレーションファイバーとSiPMを基本構造とし、信号処理回路にToT回路、データ収集にはストリーミング型TDCを導入し、高速応答可能でコンパクトなシステムを構築することで高強度ビームプロファイルの即時測定を実現した。BPMは1秒間の測定で10 µmより良い位置精度を達成し、従来のBM4光子ビームラインにおけるビーム測定システムを大きく進展させた。
BPMによる高精度なビーム測定の実現により、物理実験に必要なビーム位置やサイズの情報を得るだけでなく、加速器固有のパラメータ測定や周回電子ビームの情報を得ることが可能になった。本研究ではラジエータ位置とビーム位置の相関や計数率の減衰速度を詳細に調査することで、BSTリングのTwiss parameter、周回電子ビームサイズの高精度測定を行なった。これにより、これまで設計値のみで議論されてきた加速器に関する情報を、初めて測定によって得ることに成功した。このように、本研究ではBPMを原子核実験・加速器研究どちらにも資する、分野を跨いだ検出器として開発することができた。
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