KEK-PS E522



Physics Motivation

現在、クォークとグルーオン間およびグルーオンとグルーオン間に働く強い力は 量子色力学(Quantum Chromodynamics, QCD)によって記述されると信じられています。 高エネルギー領域ではQCDの摂動的な取扱が可能であり、QCD計算といくつもの実験 結果でよく一致した結果が得られています。一方で低エネルギー領域に目を向けると QCDによってハドロンの質量やハドロン間の相互作用も記述されなければ なりません。しかしQCDの非摂動的な振舞からまだQCDのフレームワークは 発展段階であるといえます。 もっともナイーブなクォークモデルではバリオンは3つのクォーク(qqq)、 メソンはクォーク・反クォーク対(q \bar(q))からなると考えており、 この最も簡単なモデルでもハドロンの電荷、スピン、パリティなどを理解すること ができます。またハドロンの質量もクォーク間の有効相互作用を取り入れることに よって計算されてきました。このようなフレームワークを用いると、 エキゾチックな粒子、例えばテトラクォーク(qq\bar(q)\bar(q))、 ペンタクォーク(qqqq\bar(q))、ハイブリッドメソン(q\bar(q)g)、 ダイバリオン(qqqqqq)などが理論的に予言されてきました。 QCDは粒子はカラーシングレットであることを要求しており、 クォークの数については何の制限もしていないからです。 このようなエキゾチック粒子を発見し、その性質を調べることは 新たな見地からクォーク間の動力学についての理解を深めることに つながると思います。

Observation of penta-quark Θ+

ペンタクォーク Θ+についての報告はSPring-8/LEPS Collaboration(T.Nakano et al.) によって最初になされました。質量は1540MeVで幅は実験の分解能で制限されており 上限値として25MeVが与えられました。すぐさまCLAS、DIANA、SAPHIRなどの Collaboratoinによっても確認されました。 SPring-8/LEPSの解析の動機はD. Diakonov et al.によるchiral soliton modelに よる予言によるものでした。

Experiment

KEK-PS E522実験はKEK 12GeV Proton SynchrotronのK2ビームラインにて 2002年11-12月、および2004年2-3月に行いました。 E522実験の一番の目的は(K-,K+)反応を用いてS(ストレンジネス)=-2のシステムを 作り、研究することです。特に興味のあるのは6つのクォーク(uuddss)からなる H-dibaryonを調べることです。過去の実験でH-dibaryonは発見されておらず その質量の上限値のみが与えられています。とくに E373実験 によって発見された double-Λ ハイパー核によって特に厳しい上限値が与えられ、 2つのΛの質量よりも軽いH-dibaryonの存在の可能性は小さいということが 分かりました。しかし共鳴状態として 存在するのではないかと予想され、E224実験においても 2つのΛの不変質量分布の閾値付近にenhancementが あることが分かりました。 E522実験ではこれをE224実験の統計の10倍の統計で このenhancementを調べることが第一目標です。

このページで紹介しているペンタクォークΘ+をハドロン反応を用いて 探索することも大きな目標の一つです。 Θ+の実験的なデータの多くは光生成によるものです。 一方で、エネルギーが生成閾値付近のハドロン生成を用いたデータは K+ビームとXeバブルチェンバーを用いてK0pの不変質量から Θ+の報告をしたDIANAコラボレーションと、 pp→Σ+K0pという反応でK0pの不変質量からΘ+の報告をした COSY-TOFコラボレーションの2つのみです。 現在、スピン、パリティ、幅などのΘ+の物理的特質は実験的に決定されておらず (現在の時点ではΘ+の存在を確立するためにも様々な実験データが必要といえます)、 これらを調べるためには更に多くの統計が必要になります。 一般的にいって光生成にくらべハドロンを用いた反応は生成断面積が大きい ことが予想され、π-やK+といった中間子を用いた反応によってΘ+を生成し、 研究することは非常に重要であるといえます。

E522実験ではこのΘ+の物理の重要性およびK2ビームラインが 高運動量のπビームを供給できる世界でもユニークなビームラインで あることから約3日間ほどデータをとりました。 E522実験では

という反応を用いて(π-, K-)反応のmissing massを調べることによって Θ+を探索しました。

K2 beamline

KURAMA spectrometer


For Collaborators